別れ際
駅に着いて、それぞれのホームへ向かう。
健太郎とは、乗る電車が違うんだけど、彼は私の乗る電車のホームまで送ってくれた。
本当に離れるのが寂しい…そんなことを思いながら、ホームまでの人気(ひとけ)のない階段を降りて行き、そこで、彼は私を引き寄せ、私を強く抱きしめた。それは、彼の気持ちが伝わってくる、強いハグ。思わず、私も、彼を強く、抱きしめた。
「愛してる」
そう言って、彼は、私に沢山キスをしてくれた。不倫の関係なのに、堂々としすぎてるところが、ちょっと怖いんだけど、それでも、そのキスを、普通に受け入れてしまう私…。
周りには、誰もいなかったから、良かったけど、外を歩くときは、気を付けないとな…と思いながら、再び、変装用のマスクをする。名残惜しい気持ちを、抑えながら、私は、先に電車に乗った。
もちろん、その場で彼には立ち去ってもらい、見送りは、ナシ。そんな目立つことはできません…(笑)いや、充分色々目立ってるかもしれないけど。でも、電車が動いた後で、すぐに彼からLINE。
「今日は会ってくれてありがとう。レイナのこと、可愛くて仕方ないよ♡会うたびに、どんどん好きになってる」
彼の気持ちが、すごく嬉しい♡会ってるときは、すごくクールに見える彼。
でも、気持ちをこうして、言葉にすると、どんどん熱い言葉が、溢れてくる。
嘘でも、嬉しいよね♡これが彼の策略だとしても、嬉しいものは嬉しい♡
最寄り駅に着くと、雨が降っていた。コンビニで傘を買い、自宅に電話する。まだ、シッターさんがいる時間だ。
子供達の様子を聞き、集中してるところだから、あと1時間程大丈夫ですよ、と言われ、では、用事済ませてきますね…と、電話を切る。
そして、LINEで、ある人に、ある文章を送る。
「今から、行っていい?」
本命彼とのデートの後に…
送った相手は、お付き合いしている、3人のうちの1人の、浩司だった。
浩司は、私と同じ最寄り駅に住んでいる。
自宅も、うちから徒歩5分ほどのところで、会いたいときには、いつでも会えるし、夜、子供が寝た後に、コンビニに行った帰りに、ちょこっと彼の家に寄ることもあった。
彼は、既婚者だが、単身で都内に住んでいた。大学生になる子供もいて、奥様と子供は、他県に住んでいる為、週末になると、家族が待つ自宅に帰る…という生活を送っていた。私も夫が単身赴任中なので、ほとんど、状況が似ていた。
そんな類似した環境の中で、私たちは知りあい、お付き合いするようになった。
その日は、本命の彼、健太郎とデートした帰りだったが、駅から自宅までの途中に、浩司の家があるので、ちょっとだけ、顔を出そうと思い、連絡をした。
電話をすると、ちょうど今、帰ってきたところだという。
「私も今、駅なんだけど、行っていい?」
「もちろん!すぐおいで」
あと1時間は、シッターさんがいる時間なので、浩司の家で、時間を潰させてもらお♡と、そんな軽い気持ちで、浩司の家のインターンフォンを鳴らした。インターンフォンを鳴らすと、すぐ、浩司が出てきた。
「おかえり」
「ただいまー」
私は、いったい、どんな顔をしているのだろう。
さっきまで、健太郎に抱かれ、愛し合い、手を繋いで歩き、別れ際に、強いハグをしていた。
幸福感に満ち溢れ、帰り路についていたのに、今、私の目の前にいるのは、健太郎とは、別の男性だった。
浩司は、愛おしそうに、私を見ている。思いがけず、会えたことが、嬉しくて仕方ない…といった様子。
3人の彼氏の中で、浩司と知り合ったのが1番早かった。と言っても、まだ付き合って数か月。他の2人と、そんなに変わらないんだけど、やっぱり、住んでいる距離が近いせいで、会う頻度が、尋常ではない…。(笑)
付き合い始めた頃は、ほぼ毎日会っていた。
浩司は職場も近かったので、ランチだけ、一緒に食べる日もあった。
付き合い始めて、10日ほど経った時、たまたま私は、子供たちが泊まりで不在だった為、彼はシティホテルを予約してくれ、2人きりの時間を過ごしていた。
夕食を終え、部屋に戻ると、突然、彼からプレゼントをもらった。開けてみると、50万はするだろう、ダイヤモンドのネックレス。
「え…こんな高価なもの、もらえないよ」
さすがに、付き合って10日で、こんな高価なもの、もらえるわけない。
「いいんだよ。僕がレイナにプレゼントしたいんだ」
大人の余裕の笑みを浮かべながら、彼は、私の首に、ネックレスを付けてくれた。こんな高価なプレゼントをしてくれるほど、私のこと、好きになってくれたんだ…!そう思った私は、「ありがとう♡大切にするね♡」そう言って、そのプレゼントを受け取ることにした。
あの日、彼につけてもらった日から、ずーっと毎日身につけている。やっぱり、いいものを身につけていると、背筋が伸びる気がするよね。うん…!物には罪はないもんね♡
大切にします♡